事業主が、公共職業安定所にて求人を行う求人票記載事項に関して、実態との相違により、何とも痛ましいことがおきています。
徹夜で約21時間の連続勤務をしたあと、自宅にバイクで帰る途中に交通事故死した20代男性の遺族が、男性の勤務していた会社を刑事告訴しました。
告訴した理由は、実際の過酷な勤務実態とは違う内容の「求人票」をハローワークに出していたことが、職業安定法に違反するというものです。
告訴したのは、東京都内の植栽会社に勤務していたAさん(当時24歳)の母親。
なお、この事故をめぐっては、Aさんの死亡から1年後の昨年4月、遺族が1億651万円の損害賠償を会社に求めて提訴し、現在も民事裁判が続いているものです。
Aさんは大学卒業後、ハローワークの求人で、商業施設などに観葉植物を飾り付ける植栽会社(本社・東京都)を知り、2013年10月から、アルバイトとして働き始めました。
勤務は、深夜・早朝に及び、残業時間は月130時間を超えるときもあるなど、過酷な労働環境だったそうです。悲惨な交通事故が起きたのは、2014年4月。
Aさんは、顧客店舗の飾り付けのため、午前11時から翌午前8時まで、約21時間にわたって、仮眠も取らずに働いていました。
その後、原付バイクで自宅に帰ろうとしたが、午前9時ごろ、帰宅途中の道路の電柱に衝突し、脳挫傷と外傷性くも膜下出血で死亡しました。
Aさんの母が問題視しているのが、会社がハローワークに出していた「求人票」で、そこには次のような労働条件が記されていたそうです。
<新卒正社員募集>
・試用期間なし・
就業時間 8時50分17時50分
・時間外 月平均20時間
・マイカー通勤 不可
ところが、Aさんの母の代理人弁護士によると、実際の労働環境は、これらの記載と全く異なっていたというそうです。
まず、Aさんは採用面接の際、求人票に書かれていた「新卒正社員募集・試用期間なし」という雇用形態ではなく、アルバイトとしての就労を求めらました。
ところが、正社員として採用することを口頭で告げられたのは、アルバイトとして働き始めてから半年後だったそうです。
また、求人票では、「就業時間8時50分 17時50分」、「時間外・月平均20時間」 と書かれていましたが、実際には深夜・早朝におよぶ不規則な長時間労働に従事させられ、1カ月の残業時間が134時間に及ぶこともあったということです。
さらに、「マイカー通勤 不可」という記載も事実ではなく、帰宅時間が鉄道やバスを使えないような時間になると予想される日は、原付バイクを使って帰るように指示されていたというそうです。
その結果、原付バイクでの通勤が常態化していたようです。
代理人弁護士は会見で、「これらの4点について、虚偽の労働条件の記載があったため、告訴した」と語っています。
刑事告訴の根拠としてあげているのは、「職業安定法の65条」です。
そこには、「虚偽の広告」をしたり「虚偽の条件」を示して「労働者の募集」を行った者は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられるという規定がああります。
Aさんが勤めていた会社は、この職業安定法65条に違反したから、処罰を受けるべきだということです。
ただ、代理人弁護士が厚労省に確認したところ、職業安定法65条の罰則規定が過去に適用された例はないそうです。
「完全に死文化している」ということですが、今回の刑事告訴を受けて、初の処罰につながっていくのかが、注目されます。