2008年1月28日、東京地方裁判所民事19部にて日本マクドナルド株式会社に対する1つの判決が言い渡されました。
同社の店長は、労働基準法第142条2号の管理監督者には該当せず、よって時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払うべきであるとして、約750万円(付加金含む)の支払を命ずるとの内容です。
この判決は、全国に展開するサービス業(チェーンストア、コンビニエンスストア、スーパー、飲食店グループ等)に大きな波紋を投げかけました。
この事件の第1審判決が、自社の店長に該当するものではないにしても、店長の管理監督性が問われることが、新聞報道等により取り沙汰されることにより、店長として働く従業員の意識を少しづつ変えつつあるからです。
企業名は控えますが、おなじように未払い賃金を争点とする裁判は今、広がりつつあり、業種を見てみると圧倒的にサービス業中心の構造になっています。
では、なぜサービス業が「名ばかり管理職」の代名詞みたく、訴訟が増えているのでしょうか?
サービス業に身を置いている方は、ご納得いただけることと思いますが、いわゆる「店長」と呼ばれる方には、大きく2つのタイプがあります。
あるサービス業の店舗にてのお話です。
A係のパート従業員のBさんが急に具合が悪くなり、今日休みたいと電話してきました。
無理に出勤してほしいとも言えず、やむを得ず休みを許しました。さらにC係のDさんも同じく具合が悪く、休みを請求してきたので、一度は引き止めたものの本人の具合が本当に悪そうなので泣く泣く休みを認めました。
さあ、ここでX店長とY店長という2人が登場してきます。
みなさんはどっちの店長が、サービス業における「名ばかり管理職」裁判の被告になりうる人物だと思いますか?
まずX店長
- A係もC係も今日の人員配置を見れば大丈夫そうだから、とりあえず様子だけしばらくみてよう。
- 今いる人員の中身を見ても、ベテランの人が多いしお客さんの数もそんなに混んでないので大丈夫だ。
- 今いる従業員の中で今日、残業できる人を見つけてお願いしよう。欠員の2人分くらい誰かやってくれるだろう。
つぎにY店長
- A係もC係もベテランは多いけど、2人分の欠員の負担をかけては申し訳ない。
- とりあえず全部を掌握している店長が現場に入れば、かなり負担は緩和できるだろう。
- 急に残業してほしいといえば、みんな嫌がるだろうし、店長である自分でや現場に出れば済むことだ。
答えは、そうY店長です。
真面目で、責任感が強く、従業員思いのY店長は人手が足りなくなると、自ら現場に出て従業員の方々と一緒になって働く人です。それゆえ、人望も厚くみんなに慕われています。こういった「いい人」と呼ばれる人が、「名ばかり管理職」の予備軍としてたくさんいらっしゃることは、私も顧問先のお客様からよく聞きます。
一方、X店長はどちらかというと、サラリーマン店長の典型的な人で、お店の管理者であるにもかかわらず、定時で帰宅する人です。
X店長が悪い人で、Y店長がいい人であるということを言いたいのではなく、「いい人」ほど「名ばかり監督者」としての資質があるといいたいのです。
「いい人」は会社の財産であり、会社の成績やほかの従業員の方々に与える影響は多大なものです。
「いい人」に気持ちよく働いてもらって、みんなが「いい人」の予備軍になることが社会保険労務士である
私がいま、思うところです。